悲劇伝承に感じる日本人のつらさ哀しさ

秋田の有名な人物に小野小町(おののこまち)がいる。
小野小町は平安時代の女性貴族で歌人である。
出身は現在の秋田県湯沢市の雄勝(おがち)と呼ばれる地域である。
世界三大美人のひとりなどと言われたりもする。
その真実はともかくとして、秋田新幹線こまちや秋田米あきたこまちの名前の由来でもある
きわめて重要な秋田の人物のひとりである。

先日、雄勝地方に行くことがあり、小野小町の伝承に触れる機会を得た。
小町は当時の出羽国の役人の娘として生まれ、京にのぼって勤めを果たす。
そして故郷が恋しくなって生まれ故郷である雄勝に戻ってきた。
そんな小町に好意を持ったのが深草少将(ふかくさのしょうしょう)という貴族である。
深草少将は小町を追いかけて秋田の地に来て、小町に求愛する。
小町は「芍薬の花がなくなったので、芍薬の花を百日間届けてくれたら、応じましょう」と返答する。
そのとき小町は疱瘡(ほうそう)という病気にかかっていて、百日後であれば治っているだろうと思ったからである。
深草少将は芍薬の花をそのとおり百日間届けた。
また、小町はその間、疱瘡がはやく治ることを願って泉で顔を洗い続けた。
そして百日目が来る。
深草少将は自ら芍薬の花を持って小町のところを訪ねようとしたが、
その日は大雨で川の水かさが増しており、橋を渡ろうとして洪水に流されて亡くなってしまった。
そんな伝承が雄勝地方にはあり、道の駅おがちにある『小町の郷公園』には、伝承を伝える像とパネルが展示されている。
私は唐突な悲劇のクライマックスに、パネルを読みながら思わず声を上げたのだった。

そんな悲劇を読んだときに思い出したのは老犬神社の話である。
こちらは秋田県大館地方に伝わる伝承である。
とある猟師が猟犬の秋田犬シロを連れて冬の山に猟に出たが、気が付けば隣の藩の領内に入ってしまい、
役人に捕えられてしまった。
猟師は許可された狩猟免状を持っている猟師だったが、その日はあいにく忘れてしまっていた。
仲間は秋田犬シロしかいない。
そこでシロに家に帰って免状の巻物を持ってきてくれるように頼んで放す。
シロは家まで戻ってきて猟師の妻に訴えるも、
妻は吠えるばかりのシロを見て意味がわからない。
最後の最後に妻はすべての意味を理解して免状の巻物をシロに持たせて返させる。
シロはいちもくさんに走って牢につながれた猟師の元に戻っていくも、
なんと猟師はすでに処刑された後だった・・・
そんな由来から「老犬神社」は建てられたという伝承を
大館市の秋田犬博物館で知った。
老犬神社は今でも大館市に建っている。
この話を読み進めていたときに
私はてっきりシロが巻物を届けて飼い主の猟師を助けたというオチで終わると思い込んでいたため、
まったく予想外の結末にやはり博物館内(幸いなことに誰もいなかった)で声をあげてしまった。

古くからの言い伝えというのは、必ずしもハッピーエンドで終わるとは限らず、
このような悲劇的な結末を迎える伝承も少なくないものと思う。
そんな悲劇が連綿と伝えられてきた事実に、
過去の人々の人生のつらさや苦しさ、あるいは哀しさを感じる。
おそらく、昔の日本に生きていた庶民たちは人生があまりにもつらく哀しく
そんな思いを悲劇に投影させていたのではないだろうか。
私たちは一般的にハッピーエンドを好むだろう。
ハッピーエンドの物語を好んで見たり聞いたりしたがるかもしれないが、
しかし、このような悲劇物語が連綿と言い伝えられるという背景には、
過去の日本人たちの苦しみや哀しみが込められているように感じるのである。

小野小町の伝承にはいろいろな説がある。
小町の出身地の場所についてもいろいろな説があるし、深草少将の悲恋についてもいろいろなストーリーが存在する。
今私が語ったストーリーは道の駅おがちの隣の『小町の郷公園』に掲げられているパネルで説明されていたストーリーである。
それが歴史的事実だったかどうかはさておくとして、
そこには歴史的事実を超えた私たち人間の真実が込められているように感じる。
誰であっても、愛する人を亡くしたりした経験はあるだろう。
実現しなかった恋はもちろん、実現しなかった夢や目標もあるだろう。
努力の果てに間に合わずにすべてが灰塵と帰した出来事だってあっただろう。
誰もが深草少将であり、誰もが小野小町なのである。
老犬神社の伝承も同じであり、
誰もが秋田犬シロなのである。

悲劇には人間の真実がある。
だからこそ悲劇は長く語り継がれてきたのだと感じる。
そんな伝承を語り伝えながら、私たちの先祖は生きてきたのである。

◆今日の写真
梅雨空に戻って今日は雨が降り続く。
九州地方では大雨が降り続いているとニュースでは伝えられている。
秋田も今年は雨が多いように感じている。

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